2020年01月05日

当実験室のオリジナル測定器:交流電圧・電流発生装置

以前、当実験室で使用している出力200Wの実験用交流電源装置を紹介しましたが、これをマルチメーターの校正用に使用するのはまるで牛刀で果物の皮を剥いているのと同じで、使いにくく、精度の問題もありました。
http://hirakawa-jp.sblo.jp/article/186624237.html

上から.jpg

そこで、当実験室で修理したマルチメーターR6551の交流レンジの校正を再度行うために、校正用に適切な出力を有する交流電圧・電流発生装置を開発しました。

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スペック的には
周波数40Hz〜3kHz
(マルチメーターの交流レンジ校正時の周波数はメーカーにより指定が違うが400Hz〜1kHzを使用)
電圧出力:ハイレンジ Max 960V、ローレンジ Max 120V(電流は定義せず、多分最大5mA程度か?)
電流出力:ハイレンジ Max 3A、ローレンジ Max 300mA(Max 時の電圧は6V)

電流測定中.jpg

装置自体には電圧計/電流計は取り付けず、校正対象のマルチメーターと信頼できる精度の高いマルチメーターを並列/直列に接続して使用するようにしました。よって、開発に留意すべき点は電圧/電流の短〜中期的な安定性とノイズの少なさです。







内部.jpg

開発方針としてはなるべく手持ちのパーツを使用し、シグナルジェネレーターとパワーアンプは通販で買える中国製の基板を利用し、開発期間を短くする事にしました。結果的に安価に仕上がっています。




使用しているトランスはBlock社のAVB1.5/2/6で、特殊かもしれませんが、RSコンポーネントから購入できます。
https://jp.rs-online.com/web/p/pcb-transformers/6675284/
同じトランスをホームACパワーアナライザでも使用しています。
http://hirakawa-jp.sblo.jp/category/4507012-1.html
詳細は回路図と写真を参考にしてください。

詳しい説明は省かせていただきますが、苦心した点を紹介します。
電流出力は同じ電流ならなるべく電圧を低くして、必要な電力を少なくしたいです。今回開発した装置はアマゾンに出店しているショップから購入した、デジタルパワーアンプTPA3118をPBTL接続した中国製のモノラルアンプ60W出力の基板です。ICのデータシートによると出力に接続できる負荷インピーダンスは最低で2Ωなので、2Ωの負荷抵抗に3A流すには6V必要です。つまり、18W。それだけの電力を負荷抵抗に消費させると、使用する抵抗のワット数にもよりますが、かなり温度が上がり、抵抗値の精度に影響を与えます。したがい、負荷抵抗はなるべく低くしたいものです。
最初の設計ではトランスの使用を考えてみました。二次側の電圧を1.5Vにして、負荷抵抗を0.5Ωにすれば3A流れ、必要な電力はたったの4.5Wで済みます。しかし、市販されているトランスには出力1.5Vなどありません。複数のトランスを組み合わせて必要な電圧を得るにも、二次側に3Aを流せるトランスはかなり大きなサイズになります。専用のトランスを製作すればよいのでしょうが、ワンオフで作るにはかなり高価になるでしょう。結局、トランスはあきらめて、アンプの出力を直接負荷抵抗に接続することにしました。
実は、2Ωの負荷に3Aの電流を流しても必要な電力は18Wなので、アンプの出力は30Wもあれば十分と考えTDA8932を使用したモノラル35W出力の基板を購入。ところが、試してみると連続出力の場合の出力は定格の1/3〜1/2程度しかありません。定格の35Wは音楽や音声を出力する場合のようです。また、ICのデータシートにはヒートシンクは不要と書いてありますが、実際は連続出力ではかなり熱くなり、放熱を考えておかないといけません。
amp.png

この失敗を元に、TPA3118の60W出力のアンプに取り換え、装置内部の写真でわかる通り、小さな放熱板(aitendoから購入した小さなヒートシンクを秋月で買った熱伝導性の接着剤で張り付けた)とファンを使用しています。なお、このアンプはそのままではゲインが有り過ぎるので、基板上のR27(100K)のチップ抵抗を取り除きゲインを20dBに下げています。
アンプには古いパソコン用の電源を流用して16Vを供給しています。
アンプの出力はディレイタイマを使用しスイッチを入れてから1秒ほど遅れて負荷に接続するようにしました。そうしないとポップノイズで接続したマルチメーターなどを壊してしまうかもしれません。
DDSOSC.png

DDSのシグナルジェネレーターは同じく中国製の超安価のものです。これはATMELのマイコンの8ビット パラレルポートにR-2Rラダー抵抗のD/Aを使用した簡易的なDDSですが、周波数はMax 3kHzなのでこれで良いでしょう。
ケースを分解して、LCD表示部と本体基板を分離しています(実は、これは大変な作業でした)。オリジナルの出力回路ではDDSシグナルジェネレーターをOFFにしたときに直流が出力されてしまします(最大電圧の1/2の電圧)。この時に大きなポップノイズが発生する事になるので、出力を添付の図のように改造しました。ついでに、ローパスフィルタを兼ねて、8ビット出力をスムーズにします。また、電源は5VのレギュレターIC(LM1117-5.0)を取り外して直結にして、オリジナルの定格供給電圧9Vを5Vに改造しています。シグナルジェネレーターの出力は900mVrmsに調整しました。これで出力の最大電圧・電流を少し超えるくらいです。
交流出力信号は内蔵のDDSオシレータの出力を使用するとノイズが多いのか、5桁のマルチメーターでは最小桁が安定しません。したがい、シグナルジェネレーターの内蔵/外部信号の切り替えを設け、外部のファンクションジェネレターを使用できるようにしました。4桁程度の安価なマルチメーターの校正には内蔵のシグナルジェネレーターでも問題ありません。
AC_Generator_Main_1_v2.png
AC_Generator_Main_2v2.png
DDS Generator.png




















重要
最後ですが、一番重要な事を書いておきます。これを守らないとマルチメーターを壊します。
この交流電圧・電流発生装置は使用時の過電圧/過電流に対する対策はほとんどありません。したがい、スイッチのON/OFF、内部/外部の切り替え時などにポップノイズで瞬間的な過電圧/過電流が発生する可能性が大きいので、操作時は必ず電圧/電流を最小に絞ってから切り替えてください。また、外部オシレータからの入力が高すぎると同じく過電圧/過電流になります(900mVrmsを入力すること)。これらの対策を完全に行おうとすると、そちらの方が技術的に難しく、時間と費用が何倍もかかります。あくまでも、個人で、たまにしか使用しない事を前提に製作したものなので、これを参考に自分でも製作しようと考えている方は肝に銘じておいてください。

あくまでも、自己責任でどうぞ!



posted by ひら at 19:15| Comment(5) | 測定器